関係

  

哲学者殿!

①私があなたに差し上げたお手紙にあなたが書こうとなさっているお返事に返信いたします。②あるバイオリニストが磁石を買って、それを家に持って帰ろうとしました。その途中でごろつきどもがバイオリニストを襲撃し、彼の帽子をはたき落としました。風が帽子をひっつかみ、通りへ持ち去って行ってしまいました。③バイオリニストは磁石を地面に置いて、帽子を追って駆け出しました。帽子は硝酸の水溜りの中に落ちて、そこですっかりぼろぼろになってしまいました。④ごろつきどもは磁石をつかんでずらかりました。⑤バイオリニストは外套と帽子を身に付けずに帰宅しました。というのは、帽子は硝酸の中でぼろぼろになったからですが、帽子を失くしたことに落胆したバイオリニストは、外套を路面電車の中に置き忘れてきてしまったからです。⑥その電車の車掌は外套をぼろ市に持ってゆき、そこでそれをスメタナと穀類とトマトに交換してもらいました。⑦車掌の義父はそのトマトを食べ過ぎて死んでしまいました。車掌の義父の遺体は死体安置所に寝かされました。ところが取り違いが起きて、車掌の義父の代わりに誰だか分からない老婆が埋葬されました。⑧老婆の墓には白い柱が立てられました。そこにはこう書かれています。「アントン・セルゲーヴィチ・ソッチュウシャショフ」。⑨11年後、この柱は蛆に食い破られて倒れてしまいました。墓守はこの柱を四つに割り、それを自宅のコンロにくべました。墓守の妻はこの火でカリフラワーのスープを作りました。⑩しかしスープが出来上がったとき、壁の時計が外れて、スープの鍋に落ちました。時計はスープから取り出されましたが、その時計の中には南京虫がうようよいて、いまやスープの中にそれが見つかるのでした。スープは乞食のチモフェイにやりました。⑪乞食のチモフェイは南京虫入りのスープをたいらげて、乞食のニコライに墓守の親切を話して聞かせました。⑫翌日乞食のニコライは墓守のもとを訪ねて、施しを乞い始めました。しかし墓守は乞食のニコライに何もやらず、彼を追っ払いました。⑬乞食のニコライは猛烈に怒り、墓守の家に火をつけました。⑭火は家から教会に燃え移り、教会はすっかり焼失してしまいました。⑮長期間にわたって捜査が行われましたが、火事の原因は突き止められませんでした。⑯教会のあった場所にはクラブが建てられました。開館する日にはコンサートが催されました。そこには14年前に外套を失くしたバイオリニストが出演していました。⑰聴衆の中には、14年前にこのバイオリニストの帽子をはたき落とした、あのごろつきどもの内の一人の息子がいました。⑱コンサートの後、彼らは同じ路面電車で家路につきました。しかし彼らの後ろを走る路面電車を運転していたのは、いつかバイオリニストの外套をぼろ市に売った車掌その人でした。⑲こうして彼らは夜遅くに街を走っています。前にはバイオリニストとごろつきの息子が、その後ろには運転手、つまりはかつての車掌が。⑳彼らは電車に揺られています。自分たちの間にどのような関係があるのか知らないし、また死ぬまで知ることはないでしょう。

1937年9月14日