実に素晴らしい夏の一日のはじまり(シンフォニー)

 

 雄鶏が鳴いた途端、チモフェイは窓から屋根の上に滑り落ちて、そのとき通りを歩いていた人達全員の度肝を抜いた。農民のハリトンは立ち止まって、石を手に取るとそれをチモフェイに投げつけた。チモフェイはどこかへ消え失せてしまった。「すばしこい野郎だ!」群衆が叫んだ。するとズーボフとかいう男が走って来て、頭を思い切り壁にぶつけた。「くそ!」歯槽膿漏の女が叫んだ。しかしコマロフはこの女をコチョコチョンコにしたので、彼女は呻きながら門の方へ走り去ってしまった。その傍を通りかかったフェチェリュシンがくすっと笑った。コマロフが彼に近寄って来て言った。「おいてめぇ、バター野郎!」そしてフェチェリュシンのお腹をぶん殴った。フェチェリュシンが壁にもたれかかると、しゃっくりが出始めた。ロマーシュキンは窓から下に向けてぺっぺっと唾を飛ばし、フェチェリュシンに命中させようとしてきた。その近くでは、団子鼻の女が桶で自分の赤ん坊を引っ叩いていた。ぽっちゃり太った若い母親は、いたいけな女の子の顔を煉瓦の壁にごしごし擦り付けていた。ちびの小犬は、そのほっそりとした足の骨を折ってしまい、歩道に寝転んでいた。ちいさな男の子は痰壺から何やらおぞましいものを出して食べていた。乾物屋には砂糖を求める長い行列ができていた。女たちは大声で罵り合い、籠でお互いを押し合いへし合いしていた。農民のハリトンは変性アルコールを心行くまで呑むと、女たちの前に立ちズボンのファスナーを下ろして、汚い言葉を吐いた。

 このようにして素晴らしい夏の一日がはじまった。

1939年